MLBのレギュラーシーズンが終了し、大谷翔平選手の成績が確定しました。規定打席・規定投球回の同時達成は、メジャーリーグの長い歴史でも103年ぶりの快挙です。
打者としては打率.273、ホームラン34本、95打点、ヒット数は160本、OPS.875というメジャーの打者として一流の数字を残しています。さらに投手として15勝9敗、防御率2.33、219奪三振というサイ・ヤング賞候補になるような圧巻の成績を残しています。
大谷選手の活躍を否定する人はいませんが、MVPの議論になれば大きく変わります。特に近年、メジャーではMVPを選出する際に「WAR」という数値が重要な判断材料となるようです。メジャーのアナリストを務めているマイケル・ケイ氏は次のように語っています。
「ジャッジは野手オンリーでオオタニよりWARが高いのだから、ジャッジがMVPを獲得すべきだ」
近年のMVPレースが「WAR重視」だったため、アメリカではWARの数値を理由にジャッジ選手を推している声が多いようです。また、2021年の大谷選手のMVPは記者による満票での選出でしたが、少しの異論はあったようです。手のひらを返したように今年になって「炎上発言」をした選手も中にはいました。トロント・ブルージェイズ所属のブラディミール・ゲレーロJr.選手は次のように語っています。
「オオタニが今年も選ばれるのなら、それはMVPがふたたびかすめ取られることを意味する。正直なところジャッジの数字はオオタニの遥か上を行っている」
昨年ホームランと打率の二冠王を獲得しながら、惜しくもMVPは大谷選手に獲られてしまったことを皮肉って表現したものだと思いますが、「かすめ取られる」というのは良くない表現ですよね。この発言には批判の声が殺到しました。ゲレーロJr.選手は悔しい気持ちでオフシーズンを過ごしたこともあり、昨年MVP候補だったためについつい口が滑ってしまったことでしょう。これに対して、「ピッチングニンジャ」としても知られる投球分析家のロブ・フリードマン氏は次のように語っています。
「オオタニはオールスター級の打者でありながら、投手としてはサイ・ヤング賞候補である。つまり『最も価値あるポジションプレーヤー』ではなく、『最も価値ある選手』なんだ。だから、彼の意見には同意できない。もし、投手だけならMVPを手にするハードルは高いだろうが、どちらもやっていたらどうなのだろう」
こうした「今年のMVPは大谷選手とジャッジ選手、どちらが獲得するのか」といった議論はアメリカ全土に広がっています。ジャッジ選手の地元紙ニューヨークポストのジョエル・シャーマン記者は8月29日の記事でこう記しています。
「ジャッジはMVPレースで唯一無二の大谷を上回っている。エンゼルスは優勝争いから脱落しているがジャッジはヤンキースで活躍している」
当然ですが、これに真向から反対する意見を書く新聞もあり、トロント・スターでは「連続MVPだ」と大谷選手を推しています。
また、優勝争いをしているか否かで考えるのはおかしいという指摘もあります。米ポッドキャスト番組『Ultimate Cleveland Sports Show』で司会を務めるアダム・ザ・ブル氏は、メジャーリーグの情報発信を多くしています。そんな彼は、ツイッターでこう語っています。
「『MVPはジャッジだ』という意見は理解するが、オオタニが全くありえないという意見は馬鹿げている」
「これは個人の賞だろ? なぜチーム状況が最悪だからという事実が理由で、オオタニが罰を受けなきゃいけないんだ。それこそありえない」
このように、多くの議論が巻きおこるほど拮抗したMVPをめぐる争いは、それだけ候補の2人がハイレベルな争いをしているからとも言えます。そして、そんなMVPの判断基準として数多く言及される指標が、選手の活躍度をはかる「WAR」というものです。
今回は、このWARという指標がなぜこれほど言及されているのかと、その指標が本当に大谷選手の活躍度がはかれているかについて紹介していきます。